記憶と理由

記憶というのは深夜急に思い出される。

そのときは、忘れもしないことのように感じられるのに、目が覚めると全て砂浜に描いた文字のように、波にされわれてしまうようだ。

 

今の俺には理由が必要で、せめてもう一度と、祈るだけのすがるような気持ちが必要だ。

 

あともう一回だけ、頑張らせてほしい。

もう身体が少しずつダメになってきているのを分かった上で、あと一度だけ。

 

そして、ちゃんと思い出させてほしい。

これまで何度も失敗をしてきたことを。

そもそも、俺がいまこうしていること自体不思議なことなんだ。

今更、偉ぶったり、自分の理想で塗り固めようとしても、過去は消えたりしない。

その意味を、書き換えて、いつかの自分の方を叩いてやれるように、そして、

大丈夫だ、といってやれるように俺はがんばってきたんだろう。

 

なら、折れることも負けることも、受け入れた上でそれでも前を向いて踏ん張っていないといけない。

 

一人の人間のことをこうして思い深く書くことになるとは思いもしなかった。

けれど、思い出してそれが大切に思えるのが人間なのだと、そう感じる。

 

君は変な奴だった。

プライドが高く、変な踊りを踊り、そしていつもペプシコーラを飲んでいた気がする。

あとにもさきにも名前に偏差値をつけられたのはあれきりだった。

俺のはどれくらいだったっけか。下の名前を普通より少しよいような数値で褒められた気がする。

 

俺は人生をやり直そうとしていた。

それまでの全てを取り戻して、自分の失ったものを数えては拾いあげるような日々を送ろうとしていた。

家族のことを、大切に思った女性のことを、そしてうつむいて涙を飲んでいた自分を。

 

ただ一つ人生を変えるような動きがあったからといって、

人間はそう変わらない。努力をしてみても、すぐに化けの皮は剥がれる。

 

何故君はそんな俺を評価してくれたんだろうな。

さん付けで俺の名前を呼び、俺を馬鹿にするやつらを、俺の良さをわからない馬鹿だと言った。

 

活路を切り開くにあたり、俺は一番に君に相談をした。

ハンバーグを食いながら、いつもの調子で、話をし、そして率直にダメなところを指摘してくれて、それから、君は人を紹介してくれた。

そういう意味で、俺が踏ん張っていた頃の一番の起点は君だったよ。

 

色々な失敗をしても、自分の本来の性質が露呈してやっぱりうまくはいかなくても、

それでもなんとか俺は自分の目的を完遂した。

 

そのとき、君がこういってくれたことを俺はよく覚えている。

もう一度やり直せるのだと思えたと。

 

俺は嬉しかったよ。

昔の自分の背中を叩いてやれたような気がした。

 

でもしばらくして、君は少しずつ自信を失って、いつものうそぶくような感じじゃなくなった。弱気になっているのを見て、いつも挑んでいるのでなければ、それは俺の友人ではないと、俺は言った。

 

そして、その次の年が明けて、最後に俺が誘ったとき、体調が悪いからまた良くなったら遊んでくれと言って、君はいなくなった。

 

ただこれだけのことだった。